広がりゆくトポロジーの世界ー言語としてのホモトピー論ー

 今回は玉木先生の広がりゆくトポロジーの世界ー言語としてのホモトピー論ーという本を読んだので章ごとに簡単に感想を述べていこうと思う。

 

1.トポロジーとは何か?

 題通り新しいトポロジー像を考え直すというところから話がはじまる。

複体はポセットとして扱われ、逆にポセットから順序複体が構成できる。これについては10章で圏と関手を用いて書かれている。実際2つの関手が作れ、互いに逆ではないが良い関係があるらしい。また、後者の関手は小圏から分類空間を構成する方法の特別な場合らしい(△→Catに沿った△→Topの左Kan拡張らしい)。

ホモトピーを統一的に扱うためにモデル圏が使われるため、大雑把に言うとホモトピー論とはモデル圏の研究である(今読んでいる西田さんのホモトピー論にはホモトピー論とはHo(Top)の研究と書かれていたりします)。モデル圏は6章で少し詳しく解説されている。

ホモトピー論が研究されていく過程でオペラッドという数理物理などで使われる重要な概念が生まれた。起源は多重ループ空間の積らしい。オペラッドや多重ループ空間は8章で少し詳しく解説されている。

 

2.ホモロジーのアイデア

 この章は多方面からのホモロジーの解釈について説明されている。 ホモロジーやこホモロジーには

多様体微分形式など幾何学的構造により定義される不変量

・単体的複体の組み合せ論的構造により定義された不変量

・Eilenberg-Steenrodの公理系を満たすモデル圏上の関手と自然変換の列

多様体コボルディズムを用いて定義される位相空間の不変量

スペクトラムにより表現される関手

・モデル圏上の線型関手

・アーベル化関手の導来関手

など様々な見方がある。

Poincareのアイデアから始まり、様々なホモロジーについて書いてありとても面白かった。

 

3.ファイバー束とホモトピー

 メビウスの帯がS^1のファイバー束であることやその構造群が位数2の巡回群であることなど分かりやすい例を用いてファイバー束が説明されてる。とても興味深かったので参考文献のSteenrodの本を図書館で借りてきた。私の卒研のゼミはブラウンの表現定理を示すことを目標にHatcherを読むことになりそうでこの定理により、ファイバー束が分類できるらしいので関係ありそう。

 

4.分類空間について

 分類空間は位相群Gに対し主G束を分類することができる。分類空間の定義は様々な数学者により一般化されているらしい。この章はMilnorやMilgramによる位相群の分類空間の構成から始まり、小圏の分類空間が考えられることや群を対象1つで射が同型射のみの圏と見なして分類空間を考えることとMilgramの構成が一致することが書いてある。分類空間には元々興味があったのでとても面白かった。

 

5.関手の微積

 この章は数ヶ月前にベーシック圏論を読んでいるとき、一度読んだことがある。ベーシック圏論では稠密性定理(任意の前層は表現可能関手の余極限でかけるという主張)のアナロジーとして関手の微積分が挙げられており、そのときに読んだ。ちなみに稠密性定理は要素の圏で証明したり、米田埋め込みの米田埋め込みに沿った各点Kan拡張を計算することでも証明できる。

関数が微分でき、テイラー展開できることを関手に拡張しようということを目標にそれに必要なホモトピー極限などについて書かれている。 極限はホモトピー同値と相性がよくないため、ホモトピー極限ができたらしい。

 

6.何でもモデル圏

 位相空間の圏や単体的集合の圏がモデル圏になることや複素多様体の圏をモデル圏に埋め込むなど例を挙げながらモデル圏について書かれてる。最後の例は微分空間の圏はモデル圏で多様体の圏を埋め込めるんだけどそれと同じような話かな? Hovey読みたくなってまた図書館で借りてきた。

モデル圏の日本語の文献は知らないので今pdfを書いてるけど頑張っていきたい。

 

7.並列処理とホモトピー

 画像認識とか現実的な問題でもトポロジーが使われてて凄いなと感じた。 後半はflowの圏がモデル圏になることの説明が書いてある。位相圏ちゃんと触ったことないけどHomが位相空間なのか…Top豊穣圏とかあまり考えたことないな…

 

8.多重ループ空間からオペラッドへ

 ベクトル空間や群環を例にオペラッドが説明されている。一般的に対称モドイダル圏ならオペラッドとその作用を考えられるらしい。オペラッドで代数的構造を一般化したり代数的構造のup to homotopyバージョンなどを考えられるとか色々面白そう。

 

9.ホモトピー的代数

 鎖複体の圏の代数的構造は次数付き微分代数で記述され、そのup to homotopyバージョンがA∞代数らしい。Lie環でも同じようなことを考えたL∞代数ってのもあるらしく面白そう。以前A∞代数知りたくてSGCの数物系のための圏論パラパラ見たけど難しかった印象がある。

 

10.組み合せ論と代数的トポロジー

 1章で軽く書かれていたポセットと複体の関係が圏と関手を用いて説明されている。互いの関手は逆にはなってないが良い関係を持っているらしい。 組み合せ論的代数的トポロジー面白そう。Loose Endにも書いてあるが離散モース理論ってのも関係してるらしい。通常のモース理論は可微分多様体上の関数やベクトル場を扱うが、離散モース理論では、単体的複体やCW複体を扱うらしい。

 

11.超平面配置と有向マトロイド

 有限個のベクトルの間の一次従属性を抽象化した概念であるマトロイドについて書かれている。特異点論に属するのか線形代数に属するのかよく分からない分野。 でもこんなところにもトポロジーが出てきて面白そうだなと感じた。

 

12.トポロジーと工学

 自律走行ロボットの制御とセンサー・ネットワークを例に挙げ、工学への応用について書かれている。オイラー標数を測度と見なして積分するらしい。(マイヤービートレス完全列より有限加法性が従うらしい) 層とも密接に関係するらしいしめっちゃ面白そう。制御と聞くと力学系の安定性が頭に浮かぶ。Loose Endにも書いてあるが、センサー・ネットワークにはPersistent Homologyが関係するらしい。

 

13.ストリング・トポロジー

 数理物理学に起源を持つhomological conformal field theoryに関係するストリング・トポロジーについてお気持ちが書かれている。 ループ空間のホモロジー群は積を持ち、係数環が体の時はそれによりホップ代数になるらしい。これと代数群の研究がホップ代数の起源らしい。

 

14.高次の圏とホモトピー

 位相的場の理論を定式化する高次元圏論について書かれている。 HTT読みたいなぁってなった。 最後に玉木先生のトポロジー像が書かれていて、本の題名にもある言語としてのホモトピー論ということについて説明されている。

 

 この本は厳密な主張や証明を述べるのではなく、イメージを大事にしている本なのでパラパラと読め、たくさんの話題を知ることができた。この本には膨大な量の話題が含まれているため、全てに厳密な証明を与えるのはとても難しいが、興味のあるとこのみ参考文献を参照してみるのが良いと思う。本当に面白い本なので是非手にとってみてほしい。